小学生にサイエンスはできるか?

 数年ぶりに風邪をひいてしまいました。仕方なく自宅で安静にしていた時に興味深いテレビ番組を観ました。


 スーパープレゼンテーションという番組です。各界のユニークな演者が15分ほどプレゼンを行うというTEDの動画を日本向けの語学番組として紹介したもののようです。


その中で、小学生でもサイエンスを研究することが可能で、実際に英国の小学生25人が行ったマルハナバチの研究が、『Biology Letters』という英国王立協会の学術誌に掲載されたというプロジェクトについての講演がありました。2年ほど前に日本の新聞でも取り上げられたので覚えている人も多いかもしれません(参考:英小学生のハチの研究、実は大発見 権威ある学術誌に掲載)。もちろん、論文はプロジェクトを率いたBeau Lottoという研究者によって執筆されたのですが、図は小学生の書いた図や感想文がそのまま掲載されたりして、なかなかユニークな論文となっています。


講演では、小学生によるプロジェクトがどのように進行していったのか、Lotto自身の語りとともに小学生の一人もトークを行っています。論文掲載への道のり(リジェクト、著名な研究者によるコメント、査読、そしてアクセプト)についてもジョークを交えて語られているので研究者にとっては参考になるかもしれません。


スーパープレゼンテーション「みんなの科学(子供も大歓迎!)」
(上記リンク先では日本語字幕スーパーで観ることができます)



Beau Lotto + Amy O'Toole: Science is for everyone, kids included
スーパープレゼンテーションの元になっているTEDの動画


 科学研究の論文というのは、いくつか決まった手続きがあるため、小学生だけで掲載まで至るのは難しい側面があります。こういう研究は、「どうせ大人が話題作りに小学生を利用して行っただけなんだろう」といううがった見方をしてしまう人もいるかと思います。しかし、考えてみれば、この論文に限らず、生態学の研究では、論文の元になる実験・観察データそのものは、実は小学生でも簡単にとることができるのではないでしょうか。加えて、変に偏見がない分、シンプルで一般性のあるアイデアを思いつく可能性もあります。


 私自身、大学の卒業研究で最初に行った研究は、小学生の頃の自由研究と何らか変わるものではありませんでした。ガの幼虫を飼育して、そこから羽化してくる寄生バチや寄生バエを記録し、専門の先生に送って種を同定してもらい、寄生率を集計しただけのデータでした。それでも、既出版の関連する論文を読んで、科学論文の手続きを踏んで論文を書き上げることができました(『Biology Letters』に掲載されるほどのレベルには到底及びませんでしたが・・・)。


 論文執筆の難しいところは、アイデアがどれだけユニークか、また得られたデータがこれまでの知見ととどう違うのか、そして相対的にどういう価値があるのかを客観的に記す必要があることです。しかし、シンプルな規則を覚えればあとは興味のある限り情熱をもって続けることが可能な、将棋や囲碁、プログラミングなどでは、大人に負けない実力を持つ小学生が現れています。そういう意味でも、高価な機器を必要としない分野では、子供でも重要な科学的発見がなしえるようにも思えます。


文献
Blackawton PS (2011) Blackawton bees. Biology Letters 7: 168-172.


 子供が疑問に思うことを丁寧に聞いていけば、ユニークな研究へのヒントが得られるかもしれませんね。