サンドウィッチ諸島

 ウォーレス(Alfred R. Wallace)の「Island Life」(1881年)の復刻版を買ってみました。何かの本で、「島の生活」と訳されていましたが、「島の生命」の方が適している気がします。


目次


Part 1: 生物の分散
Chapter 1: 導入
Chapter 2: 分布の基本
Chapter 3: 分布の区分:動物地理区
Chapter 4: 進化:分布への鍵
Chapter 5: 動植物の分散力
Chapter 6: 地理的・地質学的変化
Chapter 7: 分布に影響を与えてきた気候変化:氷河期
Chapter 8: 氷河期の原因
Chapter 9: 古代の氷河期
Chapter 10: 地球の年齢と動植物の進化率


Part 2: 島の動植物相
Chapter 11: 島の区分
Chapter 12: 海洋島:アゾレス諸島バミューダ
Chapter 13: ガラパゴス諸島
Chapter 14: セント・ヘレナ
Chapter 15: サンドウィッチ諸島
Chapter 16: 大陸島:グレートブリテン島
Chapter 17: ボルネオとジャワ
Chapter 18: 日本と台湾
Chapter 19: 古代の大陸島:マダガスカル
Chapter 20: セレベス
Chapter 21: ニュージーランド
Chapter 22:ニュージーランドの植物相:類縁性と起源
Chapter 23: 南半球温帯域の周極要素
Chapter 24: 要約と結論


 分厚い本なのですべて読んでいませんが、興味ある章だけでも拾い読みすると良いかもしれません。もちろん120年以上前の本なので、今では訂正されている事実が多いのですが、ある程度現在の知識がある人には楽しめそうです。


 18章に日本と台湾があります。日本は当時からジャパン(Japan)でしたが、台湾はフォルモサ(Formosa)と記されています。もともとポルトガル起源の「美しい」という意味だそうです。ウォレスは日本も台湾も訪れたことはありませんでしたが、文献記録を丹念に拾い、日本産哺乳類と陸生鳥類、台湾産哺乳類と陸生鳥類について解説しています。


 15章にサンドウィッチ諸島(Sandwich Islands)があります。今ではこの名称は全く使われていませんが、「ハワイ諸島」のことです。ハワイは古くからポリネシアの人々が住んでいましたが、西洋に認識されたのは18世紀後半のキャプテン・クック(James Cook)によって発見されてからです。当時、英国の貴族で海軍大臣(クックのスポンサー)であったサンドウィッチ伯(John Montagu, 4th Earl of Sandwich)にちなんで名付けたそうです*。


「ハワイ」は、西洋に知られる以前から住んでいた人々が使っていたハワイ語に由来しています。このように、かつては西洋中心で名づけられていた地名も徐々に地元の言葉に置き換えられるようになってきたのでしょう。


 小笠原諸島も、米国では「ボニン・アイランド(Bonin Islands)」と呼ばれ、現在でも英語の地図ではBonin Islandsと記されています。日本で、「ボニン・アイランドはどこですか」と聞かれても知らない人は多いでしょう。一方で、研究者は英語で論文を発表する時には「Bonin Islands」と書いている人は多いようです。しかし、以前私が論文を投稿した時、外国人の査読者は、「Bonin Islands は今は日本であって、地元で使われている Ogasawara Islands を使うべきだ」と言われてしまいました。私自身、これまで深く考えたことがなかったのですが、確かにそのとおりかもしれないと、以後は「Ogasawara Islands」と使うようになりました。もちろん、論文内での初出には「Ogasawara (Bonin) Islands」とするようにはしていますが。


「小笠原」はしょせん武将の氏名に由来する程度だし、「ボニン」も無人島に由来するので、どちらもたいした意味ではないのですが。


 一方で、西洋由来のジャパン(Japan)ではなく「Nippon」とか「Nihon」というのを使った方がよいのでしょうか・・・。



*ちなみに、食べ物のサンドウィッチも同じサンドウィッチ伯に由来するそうです。