大学院修了後の歩む道

 わたくしごとですが、大学院を修了後、ポスドク(国内の大学研究室)を経て、独立行政法人(独法)の研究所に入所し、研究留学(海外の大学研究室滞在)をはさんで、現在も独法研究所で勤務しています。独法研究所というのは、たぶん、一般の人からだけでなく、他機関に勤める研究者にとっても、どういう仕事をしているのかちょっと想像しにくい世界かもしれません。


大学の先生だと、学生の頃に直接観察する機会があり、実情はともかくだいたいの仕事が想像できるでしょう。一方、その他の研究研究機関ではどういう仕事をしているのかはさっぱり見えてきません。学会などでお会いする人に伺ってみるのですが、「いろいろ忙しい」などと面倒がって話してくれないこともしばしばです。かといって、逆にどんな仕事をしているのかと聞かれると、こちらも困ってしまいます。


 私の場合ですと、野外や室内で昆虫などの生態データをとり、パソコンに入力したデータを解析し、英語や日本語で論文を書くのを主な業務としています*1。他には、自分の業務・出勤報告のための記録を付けたり、研究費申請のための書類を書いたり(人の書類をチェックする場合もあります)、研究所への問い合わせ等に答えるための文章を作ったり、学会等発表の準備をしたり、学会事務、論文査読などがあります。このような細かい仕事をゆっくりこなしていると業務時間はあっという間に過ぎてしまいます。また、研究費をたくさんもらっている人の場合は、研究に使う物品の発注書やポスドク・研究助手といった雇用関係書類の作成、出張のための準備(出張計画書、宿の予約)など、かなり忙しくなるでしょう。また、全国に支所がある研究所では、転勤がある場合もあります。時に、研究所運営や広報などの事務職への配置転換もあって、この場合は研究業務からは離れざるを得ません。どの職場でもそうですが、役職によって会議の数も違いますし、個人差は大きいものです。


行政機関(省庁)との関係が深い独法の研究所では、純粋な基礎研究というよりも、なんらかの形で応用的な研究をすることが求められていることが多いと思います。このあたりは、自由なテーマ・材料を扱える大学の研究室とは異なるかもしれませんが、やりようによっては、応用的なテーマ、材料を扱いながらも、基礎的な研究テーマを追求することも可能です。


 さて、実はあまり知られていませんが、大学院を修了してから、大学や研究所とは異なる道も結構あります。もちろん、研究とは全く関係ない職種に進む人もいますが、身につけてきた知識を生かした就職先の一つとして、NGO(非政府組織)があります。今年の1月に、NGOの保全団体で活躍されている方々の講演を聞く機会がありました。生態学関係の研究室で学位を取得された後、どのような職場を経て現在の仕事にたどりついたのか、そして実際どういう仕事をされているのかを、具体的な事例をあげて紹介してくださり、すごく新鮮な刺激を受けました(講演の要旨を読むことができます:1.3MB)。


 大学院を修了しても、さまざまな就職先があることを学生のうちから知っておくことは大事だと思います。

*1:個々の研究は、外部資金にせよ研究所の交付金にせよ、なんらかのプロジェクトの一つに位置づける必要があります