気になるリジェクト率

 論文をどの雑誌に投稿しようかと考える時、


(1)雑誌のインパクトファクター(Impact Factor;以下IF)*
(2)雑誌の投稿数に対するリジェクト率(Rejection Rate:投稿論文数のうち掲載を断った論文数の割合)
(3)雑誌の論文審査のはやさ


が気になる人が多いでしょう。IFの利用については誤解があったり批判が多いけれど、分野の中心雑誌を特定するには役立つので、論文を多くの人に読んでほしい場合はIFを基準に投稿する雑誌を決めるのは正しい使い方の一つでしょう(もともとCurrent Contentsに載せる雑誌を選ぶために作られた指数)。


(1)と(3)は雑誌のウェブサイトにいけば記されていることも多く、IFはISIで調べることもできるし、新着雑誌に出ている原稿受付から受理までの期間を調べることもできるでしょう。やっかいなのが、リジェクト率です。これは多くの雑誌で詳細な値を発表していません。リジェクト率が高いと二の足を踏む人も多いはずです。


 しかし、IFが低いからといってリジェクトされないとは限りません。IFとリジェクト率の関係はどうなっているのでしょうか。


 生態学分野の60誌のそれぞれのリジェクト率(2004年分のみ)を雑誌から教えてもらって、IFとの関係を調べた。その結果、予想通り、雑誌のIFの増加とともに、リジェクト率も増加した。しかし、IFが相対的に低い雑誌のリジェクト率が極めて低いわけでもなかった。IFに対して、リジェクト率/IFをプロットしその関係を調べたところ、リジェクト率/IFの値がIFが1.76まで急速に減少していた(1.76より高い値ではほとんど減少しなかった)。これは、IFが1.76より低い雑誌に投稿するのは、リジェクト率から推定されるコストに対して見返りが相対的に少ないことを示唆している。しかし、IFが低い雑誌には完成度の低い論文が投稿されることが多くリジェクト率が高い可能性もある。


 このように、投稿者にとって良い投稿雑誌を選択するには、各雑誌が毎年リジェクト率を公表してもらう必要がある。



文献
Aarssen LW, Tregenza T, Budden AE, Lortie CJ, Koricheva J, Leimu R (2008) Bang for your buck: rejection rates and impact factors in ecological journals. The Open Ecology Journal 1: 14-19.


 同じリジェクトといっても、編集者による査読なしのリジェクトと査読者によるコメント付きのリジェクトでは時間も与えられた精神的ダメージも大きく違うので、IFが高い雑誌のリジェクト率の高さは、IFの低い雑誌のリジェクト率の高さと比べても意味が違うような気がします。また、IFが高い雑誌の方が、再投稿をすすめるリジェクトを頻繁に行うということもあります。よって、リジェクトの内容を分けて解析するとまた違ったことがわかるかもしれません。


 いずれにせよ、日々リジェクトにおびえる身(?)としては、各雑誌にはリジェクト率を公表してほしいものです。



* Impact Factor:各雑誌に年ごとにつけられる値。例えば2008年のAという雑誌のIFは、2006年と2007年にAで発表されたすべての論文を対象に2008年にすべての雑誌(ISIが登録している雑誌)で引用された合計数を、2006年と2007年にAで発表された論文数で割った値。つまり、IFが高いほど、その雑誌の2年間の論文平均引用数が高いということ。高い雑誌ほどインパクトが強い研究を載せており、研究者の注目度が高くなる。


 IFについて敏感なのは日本も米国でも同じようです。こちらの大学でも、机の横に貼られた最新のIFの表(自分に関連する分野の雑誌をまとめたもの)を見ます。