塩をまけば虫が増える

 いつも楽しみにしているナショナル・ジオグラフィック・ニュースから興味深い記事が・・・。


アマゾンの塩分不足がCO2排出を抑制


 熱帯林ではシロアリが主な分解者として働いていることはよく知られています。葉や枯れ木(セルロースなど)は、シロアリや関連する微生物によって分解され、植物にとって利用できる無機物へと変換されるというわけです(この時二酸化炭素が放出される)。しかし、シロアリのような分解者にとって、ナトリウムなどのミネラルは(代謝に)必須の物質です*。食べ物(植物遺体)から得られるミネラルは限られており、アマゾンでの供給源は哺乳類の尿くらいだそうです。


研究者らは、ナトリウム不足が生態系のどのプロセスに影響を与えているのかを明らかにするために、アマゾンの熱帯雨林の林床に、塩化ナトリウム(いわゆる「塩」)を含む水(サルの尿の塩分濃度)をまいて、川の水をまいた場所と比較しました。結果、塩水をまいた区では、わずか2,3週間でシロアリの数が約7倍、捕食者であるアリの数が約2倍にも増えたというのです。また、シロアリの増加によって落葉の分解が約40%もはやいペースで消失しました。つまり、塩の追加で分解者が元気に増え、エサである植物遺体(貯蔵炭素)が一気に分解され二酸化炭素が放出したということです。


なぜ、アマゾンに塩をまいてみようかと思ったのでしょうか。そのヒントは以前行った研究にあるようです。


ナショナル・ジオグラフィック・ニュース
砂糖よりも塩を求める内陸のアリ


 ハワイなどの島や大陸沿岸部では、海に近いため塩分不足という状態にはなさそうです。


原著論文
Kaspari et al. (2009) Sodium shortage as a constraint on the carbon cycle in an inland tropical rainforest. PNAS online published.


 森に塩(水)をまくという発想がおもしろいです。ふと、海に鉄をまいたら植物プランクトンが2倍に増えたという研究(Martin et al. 1994 Nature)を思い出しました。これも、海洋にすむ植物プランクトンが鉄不足にあるという仮説を検証するために行われたものでした。


*ナトリウムが必要なのは何もシロアリだけではありません。ヒトを含む多くの動物にとって大事な物質です。