海洋島のカエル(1)固有種の発見

 「カエルを含む両生類はもともと海洋島には分布しない」というのが定説です。実際、ハワイ諸島ガラパゴス諸島小笠原諸島といったいわゆる海洋島にはカエルの在来種は全く分布していません。


これは、両生類には一部の種をのぞいて海水などに対する耐性(耐塩性)がないからと言われています。爬虫類のように殻のある卵だと耐乾燥性もあり、天然の筏(流木など)に運ばれる可能性もあるでしょう。しかし両性類の卵には(淡)水も必要なので、これも難しそうです。


つまり、カエルはもっぱら陸伝いに分布を広げるだけだと考えられてきました。琉球列島、マレー諸島の島々など、数多くの大陸島にはカエルが分布しますが、これはかつて陸橋などで陸同士がつながっていたからと考えられています。つまり、島における両生類の分布は、Vicariance (分断分布)モデルのみで説明されてきたというわけです。


 しかし、生物地理学にも例外はつきものです。海洋島にもカエルが分布し、これは海をこえた分散によってもたらされた可能性があるそうです。


 コモロ諸島はアフリカ大陸とマダガスカル島の間にある火山起源の海洋島である。マダガスカル島から約300km西にあるが、形成後一度も接したことがない。コモロ諸島マヨット島(Mayotte)では2種のカエル(マダガスカルカエル科の Mantidactylus の一種と Boophis の一種)が知られていたが、これは固有種ではなくマダガスカルから持ち込まれた外来種だと考えられてきた。



コモロ諸島(矢印はマヨットを示す)Googleより


 これら2種の形態およびミトコンドリア、核DNAを調べたところ、マダガスカル産の種群とは明確に区別される新種(かつ固有種)であった。またこれらの種はマダガスカルに現存する種のクレードの中に含まれていたことから、古くにマダガスカルから分散してきた祖先種から進化してきたと考えられた。


 またセイシェル諸島に固有の Tachycnemis seychellensis は、マダガスカルのクサガエル科の一種と近縁で、さらのこれらの姉妹群にはアフリカ産の種があった。つまり、アフリカからマダガスカルへ、さらにマダガスカルからセイシェルへの分散過程が推定された。

 
 一度も他の陸地と接したことのない海洋島でカエルの固有種が確認されたのは初めてである。しかも、海をこえた分散は異なった分類群で複数回おこったと考えられる。これまで大陸島でのカエルの分布は陸続きとなった時期に分散してきたと考えられたきたが、海をこえた分散もより頻繁に起こっていた可能性がある。


 コモロ産固有種のマダガスカルにおける近縁種は樹上性か半樹上性であることから、ある程度の耐乾燥性があったことが海をこえての分散に関係しているのかもしれない。


文献
Vences M et al. (2003) Multiple overseas dispersal in amphibians. Proceedings of the Royal Society of London B 270: 2435-2442.


 「固有種のカエルが分布する」ことがそのまま「過去に陸続きになったことがある」という証拠にはならないということでしょう。また「海洋島には在来のカエルがいない」という定説も覆されました。しかし、コモロ諸島マダガスカルからせいぜい300kmの距離ですが、ハワイや小笠原、ガラパゴスといった隔離度の高い(陸地からの距離が1000km以上の)海洋島には在来のカエルは分布していないのは確かです。


 次回は、「いかにカエルが海を渡ったのか」について。