続:大学院修了後の歩む道

 8年ほど前に「大学院修了後の歩む道」という文章を書きました。当時は独立行政法人(今でいう国立研究開発法人)の研究所に所属していたため、その当時の仕事内容を簡単に紹介しました。その後、大学教員に転職し、さらに7年が経過しました。

 

 学生の頃、間近で見てよく知っていたと思っていた大学教員の仕事は、自身が教員になってみてずいぶん印象が違うものだと感じています。もちろん、私の大学生・大学院生時代とは所属していた大学が異なりますし、大学自体が時代とともに大きく変わったというのもあります。しかし、やはり学生からみる教員像と、教員自身が仕事として経験した印象が大きく異なると思います。

 

 私が体験している大学教員の主な業務については、役職によって若干異なりますが、以下の本を読んだ印象に近いと思います。

 

大学教授という仕事 増補新版

大学教授という仕事 増補新版

 

 

  現在の私の主な仕事内容は以下のとおりです。

 

・講義

・研究

・研究指導

・学内業務

・学外業務

 

 大学教員になるまではちゃんとした講義をうけもったことはなく、最初は手探りでしたが、資料を作成したりプレゼンを作るのに改めて教科書を読み返したり 、大変勉強になりました。学生時代に受けた講義で特に印象に残ったものはなかったので、どういう講義を目指すかという方針もありませんでした。ともかく「わかりやすさ」を考えながらやっています。ただ、数年経つと、「わかりやすい講義」が必ずしも学生の学力向上につながったりすることもなければ、向学心を引き起こすものではないということもわかってきました。講義ごとに改善点が見つかるため、真剣に取り組めばいつまでも向上できるものだと思います。一方で、他の仕事もどんどん増えてくるため、講義準備にどこまで力を入れるかは他の業務とのバランスとの兼ね合いとなるでしょう。個人的には、受講者が30人以下の講義が自身にはあっていると感じています。100人以上の講義は(毎回出席点ではなくなんらかの課題を与える必要があるため)採点が大変で、加えてやる気がない学生が目につくので苦手です。

 

 自身の研究については、所属する研究室によるかもしれませんが、私自身は好きなテーマ・材料で気持ちよく研究させてもらっています。以前研究所に所属していた頃よりも自由度が増し、興味の赴くままに研究テーマを設定し自分でも満足する研究をできている実感があります。一方で、自身がデータをとったり解析したり論文を書いたりする時間は明らかに減ってしまいました。そのため、研究スタイルも、以前は長期でフィールドに出て観察や実験するのがメインでしたが、今は野外でサンプリングしたものを実験室に持ち帰って観察・実験することが主になりました。

 

 大学に移って最も時間を費やしているのが学生への研究指導かもしれません。私自身の研究テーマを提示して学生が取り組んでもらう場合より、学生のやりたい材料やテーマをサポートしていく場合が多いです。学部3,4年生、修士1,2年生、博士(後期課程)1〜3年生のいずれも対象としています。大学に移動してくる前までは、他の研究者との共同研究しかしたことがなく、せいぜい大学院生時代に先輩・後輩学生と一緒に研究していたくらいで、学生の研究指導はしたことがありませんでした。したがって、手探りでのスタートになりました。正直、学生とのやりとりを通じて、学生の成長うんぬんというよりも、私自身が教育されているという印象しかありません。私自身の研究についての知識や技術というのは大学に来る前と後ではほとんど変わっていないのではないかと思います。昔書いた論文草稿とか査読コメント、論文改訂原稿などを見直すことがありますが、ほとんど成長というものを感じません。しかし、学生とのコミュニケーションや指導方法についてはイチからのスタートでしたので、最初と今では全く異なるものになっていると思います。といっても、指導方法が必ずしも向上しているとは限らないところが難しいところです。正直、学生の考えたアイデアや書いてきた文章に、どこまで指導教員として口を出すか手を入れるかが非常に難しい。かなり手を入れると結果はより良くなる場合でも、学生の成長につながっているかどうかはわかりません。また、それによって自身の学生が奨学金などに採用されたとしても、(ある程度)自力でがんばっている(他の指導教員の)学生が不採用だった時に、本当にこれで良かったのかという悩みが消えません(本来ならより優秀な学生が採用される機会を奪っているのではないか、など)。これについてはまだ答えが出せず、一生たどりつけないかもしれません。

 

 自身が学生の頃、大学教員を見ていても全くわからなかったことが学内業務についてです。これは当然のことで、教員が学生に学内業務について話せないことがけっこうあるため、当然のことながら情報がほとんど伝わってこなかったからでしょう。カリキュラムについて、各種委員会、入試業務、本当にいろいろあります。ただ、研究所にいた頃と違い、組織防衛のための業務というよりも、学生のためを考えた仕事がけっこう多いので、個人的にはその点はやりがいを感じるところもあります。一方で、学内業務を行うために資格が必要で、国家試験まで受けさせられたのはやや閉口しましたが(例えば、巡視のための第一種衛生管理者試験など)。

 

 学外業務というのは、大学以外に依頼された仕事とここでは定義します。学術団体や学会からの依頼仕事(大会運営、支部会・全国大会準備、論文査読、編集など)に加えて、国や地方公共団体の委員としての役割などがあると思います。これはある程度自分の裁量で断ったり引き受けたりすることができるのですが、根回しをされると断れないことがしばしばあります。年によっては意外に多くの時間を費やされることもあります。

 

 私は、幼少期から昆虫に興味を持っており、昆虫採集や観察を行い、その後大学・大学院に進学し、昆虫を材料とした生態学の研究を行ってきました(参考:昆虫少年の歩む道)。その後は、昆虫を中心にさまざまな生物の研究を行い論文を書いてきました。このように昆虫研究者としてやっていく一方で、職業としてはいろいろな技術や知識が求められているのだと感じています。