ジャレッド・ダイアモンドの「The Third Chimpanzee(第三のチンパンジー)」は、チンパンジーが2種(チンパンジーとボノボ)現存するということから近縁のヒトが第三のチンパンジーであるというたとえでした。オランウータンがヒトと最も近い現存する霊長類という仮説では、「The second orangutan(第二のオランウータン)」というたとえが使われました。しかし、オランウータンは、1種類というよりも2種類が現存するというのが最近の見解のようです。
オランウータンは、ボルネオ島とスマトラ島に分布しており、以前はそれぞれは亜種に相当すると考えられてきました*1。しかし、近年蓄積された分子情報や、飼育下における雑種個体の幼児個体の生存率の低さや寿命の短さから、別種である方が妥当だとされています*2。そして、ボルネオオランウータンは、少なくとも3つの亜種に分類されています。
1) ボルネオオランウータン Pongo pygmaeus
1-1) P. p. pygmaeus(サラワク、ボルネオ島西部)
1-2) P. p. morio(サバ、ボルネオ島東部)
1-3) P. p. wurmbii(ボルネオ島中部、南部)
2) スマトラオランウータン Pongo abelii
BBC Wild Nature: Sumatra, Orangutan Sanctuary - Indonesian Fire Islands
スマトラオランウータン
オランウータンの現在の主な分布地域(黄色の枠:Google Map に加筆)
オランウータンは、使用した分子マーカーによって年代推定に変動はあるものの(60万年から640万年前)、270万年から500万年前の間に、ボルネオとスマトラの種へと分化したようです。また、かつてボルネオ島やスマトラ島などが陸続きになっていた時代にすでに分化がおこっていた可能性があるそうです。つまり、更新世後期における海水面の上昇によるスマトラ島とボルネオ島の分断よりもずっと以前に、ボルネオオランウータンとスマトラオランウータンは生殖的に隔離されていたのかもしれません。
オランウータンは深い森に生息し、しかも単独性であるため、多くの個体群(もしくは個体数)からデータをとるのが容易ではありません。より多くのサンプル数が集まれば、オランウータンの種分化や生物地理についてもっと詳しいことがわかってくるでしょう。
*1 有史以前にはマレー半島やジャワ島にも生息していたようです。ジャワ島では17世紀くらいに絶滅したようです。とすれば、オランウータンはもっと多くの種(または亜種)に分化していたのかもしれません。
参考ページ
http://www5f.biglobe.ne.jp/~nouko/Q_and_A.html
*2 もちろん他の霊長類と比較して、亜種よりも種とした方が良いということです。亜種や種の判断は、しばしば研究者の主観が反映されやすいところですが、保全を考える上では「亜種」と「種」の違いは一般に向けての重要性がかわってくるように思います。