島の法則 Island Rule(5)昆虫や植物は?

 島での体サイズの巨大化と矮小化(Island Rule)は、主に哺乳類など脊椎動物に焦点があてられてきました。植物や無脊椎動物ではどうでしょうか。


 植物では、本来草本性だった種が島で木本化して体サイズが増加する場合があります。しかし、この現象自体が Island Rule と呼ばれることはほとんどないようです。また、巨大化(木本化)や矮小化が、植物全般に見られるというものでもありません。


 無脊椎動物では、セントヘレナ島のハサミムシや、ロードハウ島のナナフシなど、島での大型固有昆虫の存在がしばしば知られています(ちょうど断虫亭さんのサイトでも島固有の大型カミキリムシが紹介されています)。


しかし、昆虫など無脊椎動物全般で、大型化が起こっているという証拠は全くありません。大型化していない種類の方がむしろ多いでしょう。定量的な調査もほとんどなされていません。ただし、ミケリスで明らかになった島の面積に対する体サイズの関係と似た現象が、地中海のゴミムシダマシで知られています。

 
 スペインのバレアレス諸島にある7つの島(0.06-1000km2)で、ゴミムシダマシの一種 Asida planipennis のオスの体サイズを調査した。体サイズは、前胸背板に8つのランドマークを設定し測定した(体サイズの指標としてそれぞれのランドマークから重心への距離を加算しルート変換した値を用いた)。


 結果、最も小さい島で体サイズが最小の値をとり、面積の増加とともに上昇した。しかし、ミケリスの体サイズ変化と同様、一定面積より大きな島では減少に転じた。



島の面積とゴミムシダマシの一種(Asida planipennis)の前胸胸板のサイズとの関係(▲は最も近縁な種 A. moraguesi を示す)


 以上のような島の面積に対する体サイズの変動パターンは、餌資源(面積とともに増加)、種間競争(面積とともに増加)、捕食圧(面積とともに増加)などが関連しているかもしれない。


文献
Palmer M (2002) Testing the ‘island rule’ for a tenebrionid beetle (Coleoptera, Tenebrionidae). Acta Oecologica 23:103-107.


 昆虫は標本としても保存されやすいので、体サイズの地理的変異を調べるには良い材料かとは思いますが、実際の Island Rule の研究例および実証例は少ないようです。


 Island Rule は、特定の哺乳類には確かに存在するような「法則」として使われているものの、その他の生物については「現象」としてよぶ時に使われている用語といえるでしょう。