島が大きくなると体サイズが増加する?

 体の大きさは動物にとって最もシンプルかつ重要な形質の一つでしょう。ゾウ、キリンが人気があるのは大きいからに他なりません。同じグループに属する動物の体サイズの地理的変化には一定の規則があることが知られています。


 たとえば、「動物の体が北方に行くほど大きくなる」というベルクマンの法則(Bergman's Rule)は、体サイズの地理的変異の現象を一般化したものとしてとしてよく知られています。


 恒温動物の場合、体温を保つために、体表から放出される熱を発汗によって調節する。一般に体長が大きくなるにつれて体重あたりの体表面積は小さくなる。温暖な地域の方が寒冷な地域より放熱を頻繁に行う必要があるため、体重あたりの体表面積は大きい方(小型である方)が有利であり、逆に、寒冷な地域では温暖な地域より体温を維持するために体重あたりの体表面積が小さい方が(大型である方が)有利であると考えられる。


参考
Wikipedia:ベルクマンの法則


 さて、体サイズの地理的変異は、緯度に沿ったものばかりでありません。島の面積の増加にともなって変化する場合もあります。


 マレーシアからインドネシアにかけて分布するリスの一種(ミケリス)について、マレー諸島の15の島々(23の亜種または個体群:マレー半島も含む)から採集された博物館標本をもとに、それぞれの個体群の体サイズ(体長)を測定した(オスとメスに差はなかった)。


調査地である島々はスンダ大陸棚にあり、第四紀更新世の頃に陸続きになっておりこの間に分布を各島に広げ、各島の個体群はこの5000年ほど海によって隔離されてきたと考えられている。


 島の面積とリスの平均体長の相関関係を調べると、面積が5km2(最小の島)から10,000km2の間の島々では、体長は増加していた。つまり、島の面積の増加とともにリスの体サイズも大きくなっていた(面積効果)。また、最も近い陸地(マレー半島スマトラ島ボルネオ島)からの距離が遠いほど体サイズは減少していた(距離効果)。一方、ずっと大きなマレー半島部(155,400km2)、スマトラ島(473,607km2)、ボルネオ島(743,244km2)の個体群では必ずしも体サイズは増加せず、面積の小さな島に比べ減少していた。



島の面積と体サイズの関係(データは原著論文に基づくが近似線は適当に描く)


 この島の面積に対するリスの体サイズ変化は、同じ気象条件で、遺伝子の交流がなく、過去同時に他の陸地からの隔離が起こった状態を仮定すると、以下の要因が関連しうるだろう。


(1)捕食圧(島が大きくなると増加)
(2)餌制限(島が大きくなると減少)
(3)種間競争(島が大きくなると増加)


文献
Heaney LR (1978) Body Size of Insular Mammals: Evidence from the Tri-Colored Squirrel (Callosciurus prevosti) of Southeast Asia. Evolution 32: 29-44.


 島の面積が大きくなると小型哺乳類であるリスの体サイズが増加するという研究でした。一方で、ボルネオ島スマトラ島マレー半島というようにかなり面積が大きくなると、体サイズは減少するという傾向も見てとれます。


 リス以外にも大小さまざまな哺乳類について、大陸と島とで体サイズを比較すると、


「島では、大陸の個体群または近縁種に比べ、小型哺乳類では体サイズが増加し、大型哺乳類では体サイズが減少する」


というパターンがみられることがわかっています。この現象は、


島の法則(Island Rule)


と呼ばれています(島嶼化とも訳されます)。


次回に続きます・・・